2007.04.20 Friday
[37]好奇心と共感の距離
以前も書きましたが、病院に2つある喫煙室のうち、手術前に利用していたのは半地下で薄暗く狭い方でした。
近い、ということが単純な理由だったのですが、わずか数日でも定期的に通っていると常連みたいな人達と出会います。
その中のある男性についてです。
彼とは消灯前の最後の一服の時に一緒となります。
パジャマを着ていないので、家族が入院してるんだろうなと単純に考えていました。
彼は誰彼構わず気軽に声をかけてきます。
「お兄ちゃん、どこが悪いの?」
「手術するの?」
「仕事は何してるの?」
この頃既に感じていたことに、入院患者はとてもフランクだということがあります。
自然な感じで人の病気を聞いて、自分も気軽に自分のことを語ります。
己がおかれている不安な状況、閉じられた世界にあって、非日常的な親近感を持ちやすいのかもしれません。
そんなわけで、聞かれた僕も気安く答えていたのでした。
彼は、新顔が入ってくるたびに遠慮なく、病気や私生活について訊ねます。
しかしふと気付いたのですが、まったく自分のことを語らない。
ある時、僕はこう聞いてみました。
「ご家族の方が入院されているんですか?」
この時までは奥さんかな?親御さんかなと勝手に想像していたのでした。
しかし彼の答えは意外なものでした。
「いや」
僕は彼の返答に驚きました。
何しろ時間は夜の9時近くです。
外来なんてとっくに終わっていますし、正面玄関は閉じられ、狭い非常用通路しか空いていないのです。
患者でない、患者の家族でもない者が、なんでこの時間に病院内にいるのか?
これはよく考えてみるととても不審なことです。
彼はそんな僕の疑念に気付いたのでしょうか。
実はこの病院に出入りしている業者だと明かしました。
機器のメンテナンスを、病院の業務が終了した夕方からやっているのだそうです。
これを聞いて、僕はとても不愉快になりました。
出入り業者がこんな時間に顧客の喫煙室で煙草を吸っていること。
僕も販売会社に勤めていますから、それは業者の人間として良くない行為だと思ったのでした。
しかし何よりも不快だったのは、患者でもない、家族でもない者が、興味本位で喫煙室を訪れる患者にあれこれ尋ねていたことです。
相手も患者だと思うから、僕らは、普通なら言いたくないことも話せるのだと思うんです。
(だって人工肛門の心配やら転移の不安なんて、相手も同じ癌患者だから言えるんだと思うんです)
そういう患者特有の心理状態を利用することが、僕には許せなかったのです。
僕は少し心が狭くなって、業者名聞いて病院にクレームつけてやろう!
なんて考えていたのですが、その必要はなくなりました。
彼は、ちょうど仕事が終わったのか、僕の嫌悪感を察したのか、やがて喫煙室に現れなくなったのです。
ま、事を荒立てなくてよかったのは、自分のためでしたね。
そんなクレーム付けていたら、きっと僕は後悔しましたから。
いずれにしろ、病院には色んな人がいるものです。
今、自分が聞いているのは好奇心だろうか?
共感力なのだろうか?
返ってくる答えは同じでも、
好奇心で問いかけられた側には、何も残らないんだなー。
近い、ということが単純な理由だったのですが、わずか数日でも定期的に通っていると常連みたいな人達と出会います。
その中のある男性についてです。
彼とは消灯前の最後の一服の時に一緒となります。
パジャマを着ていないので、家族が入院してるんだろうなと単純に考えていました。
彼は誰彼構わず気軽に声をかけてきます。
「お兄ちゃん、どこが悪いの?」
「手術するの?」
「仕事は何してるの?」
この頃既に感じていたことに、入院患者はとてもフランクだということがあります。
自然な感じで人の病気を聞いて、自分も気軽に自分のことを語ります。
己がおかれている不安な状況、閉じられた世界にあって、非日常的な親近感を持ちやすいのかもしれません。
そんなわけで、聞かれた僕も気安く答えていたのでした。
彼は、新顔が入ってくるたびに遠慮なく、病気や私生活について訊ねます。
しかしふと気付いたのですが、まったく自分のことを語らない。
ある時、僕はこう聞いてみました。
「ご家族の方が入院されているんですか?」
この時までは奥さんかな?親御さんかなと勝手に想像していたのでした。
しかし彼の答えは意外なものでした。
「いや」
僕は彼の返答に驚きました。
何しろ時間は夜の9時近くです。
外来なんてとっくに終わっていますし、正面玄関は閉じられ、狭い非常用通路しか空いていないのです。
患者でない、患者の家族でもない者が、なんでこの時間に病院内にいるのか?
これはよく考えてみるととても不審なことです。
彼はそんな僕の疑念に気付いたのでしょうか。
実はこの病院に出入りしている業者だと明かしました。
機器のメンテナンスを、病院の業務が終了した夕方からやっているのだそうです。
これを聞いて、僕はとても不愉快になりました。
出入り業者がこんな時間に顧客の喫煙室で煙草を吸っていること。
僕も販売会社に勤めていますから、それは業者の人間として良くない行為だと思ったのでした。
しかし何よりも不快だったのは、患者でもない、家族でもない者が、興味本位で喫煙室を訪れる患者にあれこれ尋ねていたことです。
相手も患者だと思うから、僕らは、普通なら言いたくないことも話せるのだと思うんです。
(だって人工肛門の心配やら転移の不安なんて、相手も同じ癌患者だから言えるんだと思うんです)
そういう患者特有の心理状態を利用することが、僕には許せなかったのです。
僕は少し心が狭くなって、業者名聞いて病院にクレームつけてやろう!
なんて考えていたのですが、その必要はなくなりました。
彼は、ちょうど仕事が終わったのか、僕の嫌悪感を察したのか、やがて喫煙室に現れなくなったのです。
ま、事を荒立てなくてよかったのは、自分のためでしたね。
そんなクレーム付けていたら、きっと僕は後悔しましたから。
いずれにしろ、病院には色んな人がいるものです。
今、自分が聞いているのは好奇心だろうか?
共感力なのだろうか?
返ってくる答えは同じでも、
好奇心で問いかけられた側には、何も残らないんだなー。